英国のパブではビールと並ぶ定番であり、近年はクラフトビール好きやナチュラルワイン派からも注目されるサイダー。リンゴの発酵酒の奥深い世界を、基礎知識、注目ボトル、専門店から案内する。

Hiromi Tani
サイダー、シードル、ハードサイダー。呼び名は違っても、基本はリンゴ果汁の発酵酒。甘いだけではない、その奥行きを知りたい。

Chris Parsons//Getty Images
サイダー、シードル、ハードサイダー。国や言語圏によって呼び名は変わるが、基本はリンゴ果汁を発酵させて造るアルコール飲料だ。フランスではcidre(シードル)、日本でもシードルという呼び名がなじみ深い。一方、英国のパブではcider(サイダー)としてビールと並ぶ定番の一杯であり、米国ではノンアルコールのアップルサイダーと区別するため、hard cider(ハードサイダー)と呼ばれることが多い。
日本では「サイダー」の名がついた甘い炭酸飲料があることから、甘くて軽い果実酒を想像する人もいるかもしれない。だが、そうしたタイプはごく一部で、実際には驚くほど幅広い味わいをもつ酒だ。フルーティで爽やかなタイプから、キリッとした辛口。しっかりとした酸が先行するものや、タンニンを感じる骨太なもの。瓶内二次発酵による緻密な泡と旨みを備えたものに、樽熟成による複雑さを内包するもの。アルコール度数も、3〜4%の軽快なものから、10%近くのボディがあるものまでさまざま。
面白いのは、原料となるリンゴそのものの多様性である。生食用の糖度の高いリンゴだけでなく、酸や渋みをもつ醸造向きの品種が用いられる。フランス・ノルマンディーや英国など、伝統産地には数十におよぶ醸造用品種があり、甘み、酸味、タンニンの組み合わせによって個性が決まる。ワインがブドウ品種や産地で語られるように、サイダーもリンゴの品種と土地、造りによって味わいを変える発酵酒なのだ。

Norma Cordova//Getty Images
さらに近年は、伝統的な産地や様式にとらわれない自由な造りも増えている。ホップを使ったもの、野生酵母で発酵させたもの、ナチュラルワインのような酸と発酵感をもつもの、クラフトビールとの境界を越えるものまで。軽快なだけでなく、食中酒として楽しめるタイプも多い。
日本でも、リンゴ産地のサイダリー(シードルリー)だけでなく、リンゴの泡に取り組んでいるワイナリーも多い。ワイン好きにとっては果実酒としての奥行きがあり、クラフトビール好きにとっては新しいタップの選択肢になる。ビールほど苦くなく、ワインほど構えず、それでいて発酵酒としての個性は十分。いまサイダーは、大人が気軽に、そして少し深く楽しめる酒なのだ。日常の嗜みの選択肢の中に、ぜひ入れてみてほしい。
まずは気軽に、よく冷やして楽しみたい軽快なタイプから。日本、英国、フランスの3本を並べると、ひと口にサイダーといっても、その表情はそれぞれに異なることがわかる。

Hiromi Tani
【写真左】ビール好きの好奇心をくすぐる、リンゴとホップの香り「ヴァンヴィ ホップシードル」/日本・長野県
リンゴ産地として知られる長野県松川町のワイナリー&サイダリー、ヴァンヴィが手がける、ホップを加えたシードル。松川町産リンゴと洋梨のベースシードルにアメリカ産シトラホップを5日間浸漬。リンゴの香りに、シトラスや花を思わせるホップの清涼感が重なり、酸味、旨み、ほのかな苦みのバランスもよい。小瓶入りの気軽さもあり、クラフトビール好きが最初に手を伸ばすサイダーとしてもおすすめ。
アルコール度数/7.0%
容量/330ml
価格/¥880
問い合わせ先/ヴァンヴィ
【写真中央】パブ気分で楽しむ、軽快な英国サイダー「ニュートン・コート・サイダー ファースト・プレス・サイダー NV」/英国・ヘレフォードシャー
食用リンゴを用いた親しみやすいスタイルで、果実味は甘やか。リンゴのフルーティさが素直に広がり、サイダーに慣れていない人にも飲みやすい。造り手のニュートン・コート・サイダーは、ヘレフォードシャーを拠点とするサイダリー。よく冷やしてグラスに注げば、英国のパブで飲むサイダーの楽しさが伝わってくる。難しく考えずに楽しめる、軽快な入門編である。
アルコール度数/4.8%
容量/330ml
価格/¥990
問い合わせ先/リカー・アンド・スター
【写真右】果実味、酸、ほろ苦さが整う、上質シードルの基準点「エリック・ボルドレ シードル・ブリュット 2024」/フランス・ノルマンディー
エリック・ボルドレは、フランス産シードルを語るうえで欠かせない造り手。ビオディナミの果樹園で自然に落下したリンゴを拾い、追熟、搾汁、発酵へと進める。瓶内二次発酵では糖分や酵母を添加せず、リンゴそのものの力を生かすのが特徴だ。熟したリンゴの香りに、酸とほろ苦さがきれいに伸び、味わいには奥行きがある。軽快さと複雑さを併せ持つ、シードルの魅力が端正に表れている。
アルコール度数/6.0%
容量/750ml
価格/¥3,520
問い合わせ先/テラヴェール
軽く一杯で終わらせるには惜しい、飲みごたえのあるサイダーもある。しっかりとした酸とともに、旨みや発酵のニュアンスを備えたタイプは、食事の流れのなかでも存在感を発揮する。

Hiromi Tani
【写真左】ナチュラルワイン派に刺さる、酸の鮮烈さ「グラフト・サイダー ネイティヴ・スポンテイニアス・ナチュラル・サイダー」/米国・ニューヨーク州
米国のグラフト・サイダーは、鮮やかな酸と発酵感を生かしたモダンな造りで知られるサイダリー。定番商品も多いが、今回紹介するのは、ハドソン・ヴァレーのリンゴを用い、果皮に棲む野生酵母や微生物の力で発酵させた限定品。大らかで鮮烈な酸が先行し、甘みはごく控えめ。リンゴの果実味に、旨みと発酵由来の複雑さが重なり、ナチュラルワイン感覚で楽しめる味わいだ。少量生産で限定的なリリースも多いので、店頭で見つけたら迷わず入手したい。
アルコール度数/6.9%
容量/355ml
価格/¥990
問い合わせ先/北沢小西
【写真中央】常備すべし。完成度の高い日本の辛口シードル「ふくしまシードル セカンド 2023」/日本・福島
福島市産ふじ100%で造る辛口シードル。ワイン用ブドウも育てる吾妻山麓醸造所ならではの視点で、瓶内二次発酵を用い、12カ月の熟成を経てリリースされる。きめ細かな泡が持続し、フレッシュなリンゴを思わせるキレのいい酸が印象的。糖度は控えめながら、ふじらしい果実味は豊か。ドライに切れすぎず、飲みごたえも十分にある。澱由来の旨みが味わいに奥行きを与え、食前から食中まで幅広く楽しめるのも魅力だ。丁寧な造りが伝わる、日本のシードルの充実を実感させてくれる味わい。価格も含めて満足度は高く、気軽に開けられる“いい泡”として冷蔵庫に常備しておきたくなる。
アルコール度数/8.5%
容量/750ml
価格/¥2,640
問い合わせ先/吾妻山麓醸造所
【写真右】 食卓で映える、軽やかな酸とやさしいタンニン「リトル・ポモーナ テーブル・サイダー NV」/英国・ヘレフォードシャー
リトル・ポモーナは、果実の個性と発酵の表情を丁寧に引き出す英国・ヘレフォードシャーの小規模サイダリー。テーブル・サイダー NVは、ジューシーなリンゴの印象を備えながら、酸とやさしいタンニンが味わいを引き締める。華やかさで押すのではなく、料理と合わせたときに輪郭が見えてくるタイプ。肉の脂、チーズの塩味、野菜の甘みとも相性がよく、飲み進めるほどによさが見えてくる食中向きの英国サイダーだ。
アルコール度数/要確認
容量/750ml
価格/¥1,650
問い合わせ先/リカー・アンド・スター
最後に紹介するのは、リンゴの果実感を軸にしながら、樽熟成や麦芽、ホップ、野生酵母によって味わいの幅を広げた2本。リンゴの泡の奥行きとその面白さがわかるはず。

Hiromi Tani
【写真左】リンゴの酸と果実感が主役のバーボン樽熟成サイダー「シードルリー・コンプトン ケンタッキー・サイダー・ブリュット NV」/カナダ・ケベック州
タンニンと苦みを備えたリンゴをブレンドし、ケンタッキー・バーボン樽で約1年熟成させた辛口サイダー。樽香や焦げ感が前に出るのではなく、凝縮されたリンゴの果実感、還元的なニュアンス、伸びやかな酸が印象的。自然な発泡感と無濾過らしい素朴さもあり、ナチュラルワインに親しむ人にも響く味わい。バーボン樽という言葉から想像する雰囲気とは異なる、自由な表情を楽しみたい。
アルコール度数/8.0%
容量/750ml
価格/¥5,500
問い合わせ先/リカー・アンド・スター
【写真右】サイダーとビールの境界を越える、いいとこ取りのおいしさ「ラ・メゾン・ロマネ・オロンシオ ムース・ソバージュ “ポム・ア・シードル” 2021」/フランス・ブルゴーニュ
ブルゴーニュの自然派ワイン生産者、ラ・メゾン・ロマネが造る発泡酒。リンゴ果汁に、大麦麦芽、ホップ、野生酵母。リンゴの酸味をまとったクラフトビールのようなフレーバーが病みつきになる。麦芽の香ばしさ、ホップ由来のほろ苦さ、野生酵母らしい複雑な発酵感が重なり、軽やかさの奥に奥行きがある。リンゴを使った発泡酒の自由さと、造りの確かさを感じさせる、特別感のある味わいだ。
アルコール度数/6.5%
容量/750ml
価格/¥4,180
問い合わせ先/テラヴェール
サイダーの面白さを知るには、詳しい人に聞きながら飲む、選ぶのが◎。タップで気軽に試せるバー、自社輸入のシードルが揃うリカーショップ、ハードサイダーに強いショップへGO!

Cidernaut
英国に暮らし、現地のパブでサイダーに親しんだオーナー、武田光さんが開いたサイダー&クラフトビールの専門店。カルチャー感度の高い店が集まる奥渋エリアで、常時10種近くのタップサイダーを揃える。甘口から辛口、フルーティーなものまで幅広く、好みに合わせて選べるのが魅力だ。フィッシュ&チップスやナチョスなど、パブ気分で楽しめるフードもあり、クラフトビールバーに行く感覚でサイダーを試せる。当店でサイダーに開眼した人も多く、「サイダーって何?」という人にこそすすめたい。
住所/東京都渋谷区神山町16-4 堀内ビル1F
TEL/03-6407-8848
営業時間/月・火・木曜 12:00〜16:00、18:00〜23:00
金曜 12:00〜16:00、18:00〜23:30
土曜 12:00〜23:30
日曜・祝日 12:00〜23:00
定休日/水曜、不定休

Hiromi Tani
世界のワイン、シードル、ブランデーを扱うリカーショップ。シードルは自社輸入のアイテムを中心に扱い、英国、カナダ、フランスなど、産地やスタイルの異なるボトルを見比べられる。店内にはカウンターがあり、日替わりでワインやシードルをグラスで楽しめるのも特徴。買う前に味の方向性を知りたい人や、ボトルを眺めながら自分好みのサイダーを探したい人に向く一軒。
住所/東京都台東区台東3-40-10 大畑ビル1F
TEL/03-3837-1313
営業時間/12:00〜20:00
定休日/日曜・月曜

KITAZAWA KONISHI
下北沢のクラフトビール&ハードサイダー専門店。ハードサイダーは米国、オーストラリア、日本など、ヨーロッパ以外の産地に特化し、自由で大らかな発想のアイテムが揃う。気になる一本は店内で開けて飲むこともできるので、飲んで気に入ったものを持ち帰る楽しみも。ビール好きが、次の一杯としてサイダーに出合うにはうってつけの場所だ。知識豊富な店主と語らいながら、その日の気分に合う一本を探したい。
住所/東京都世田谷区代沢5-28-16
営業時間/月・水・木曜 14:00〜22:00
金曜 14:00〜23:00
土曜 11:00〜23:00
日曜・祝日 11:00〜21:00
定休日/火曜、不定休あり
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