華美な装飾も、大仰な主張もない。それでもなぜか目に留まる。コペンハーゲン発のmfpenがつくるのは、見慣れた紳士服からほんの少し視点を変えた現代のテーラード。そのブレない美学とスタイルを紐解く。

Maya Matsuura//Hearst Owned
スーツを日常的に着る人が決して多くないコペンハーゲンで今、面白いテーラードスタイルを発信しているブランドがある。シグルド・バンクが2016年に立ち上げた「mfpen(エムエフペン)」だ。2025年にはLVMHプライズのセミファイナリストにも選出され、世界各地にコアなファンを増やしている。コペンハーゲン中心部には、“アーティストのスタジオ”をコンセプトにした旗艦店があり、その無機質な空間には、ブランドの美意識が織り込まれた服たちが静かに並んでいる。

アーティストのスタジオのように、無造作にミラーを配したmfpenのデンマーク・コペンハーゲン店。ブランドの服づくりと同様にミニマルで洗練された空間。

2026-27秋冬のルックをまとったストアマネージャーのヤコブ。
ワードローブの核にあるのは、ジャケット、シャツ、スラックス、ステンカラーコートといった昔からあるメンズウエア。ルーツはヨーロッパの伝統的なテーラリングで、初期のアルマーニを思わせるイタリアンスーツから、デンマークのミリタリーウエア、1990年代のスタイルまで、過去の服を現代の解釈へと置き換えている。なかでもmfpenらしさが際立つのがスーツだ。オーセンティックなのに、不思議なほど堅苦しく見えない。シルエットにはゆとりがあるが、新鮮さを決定づけるのは極端なオーバーサイズや誇張したフォルムではなく、むしろその着こなしのほうだ。シャツの襟の片方だけをジャケットからのぞかせ、腰ばきのパンツにパンクなハトメのベルトを合わせる。足元はヴィンテージライクな白のダービーシューズ。ささいな仕掛けによって生まれるのは、ソリッドながらもどこか気だるいスタイル。上質だけれど気取らず、クリーンなのに優等生ではない。そのわずかなズレが、見慣れた紳士服を新鮮に見せる。こうしたスタイルの着想源にあるのが、音楽、アート、映画、写真におけるカウンターカルチャーだ。北欧らしいミニマリズムの奥に潜むその感覚が、mfpenの服に独特のニュアンスを与えている。

左/無駄をそぎ落とした武骨なデザインのハンガーラック。 真ん中/ アレック・リーチの著書『The World Is On Fire But We’re Still Buying Shoes(世界は燃えているのに、それでも私たちは靴を買い続ける)』と共に、スチールラックに並べられたアクセサリー類。右/ 古いアーカイブキャビネットを修復し、ショップカウンターとして再利用。
なぜ、スーツを着る文化が薄れたコペンハーゲンで、このスタイルが支持されるのか。「僕たちは自分たちのためにスーツを作っています。そもそも僕たち自身が、典型的なスーツの顧客ではないんです」と創業者のバンク。実際、顧客には結婚式のためにスーツを購入し、その後、普段着として着る人も多いという。フォーマルな1着が、シャツやベルト、靴の合わせ方で日常着になる。「多くの人がテーラードを着なくなった今、スーツを着ることには、どこか反骨的なムードがあります」。スーツを日々のスタイルへと引き寄せる発想に、mfpenの面白さがある。

店内でスタッフが使用するスチーマーなどの道具もあえて隠さず、客から見える場所で日常的に使用する。
ものづくりにおいても、mfpenは自分たちの信念を貫く。素材にはファッション産業で余剰となったデッドストック生地を優先し、適したものがなければリサイクル素材や生分解性素材などを選ぶ。商品が数時間で完売しても、売れるからという理由だけでは追加生産しない。それを声高に「サステナブル」とうたうこともない。「なぜ一番大きなブランドになる必要があるのか」とバンクは問い、自分たちが納得できるペースでものづくりを行う。過去の服の再解釈も、デッドストックの活用も、「一つのコレクションがずっと続いている」というmfpenの根底にあるのは、既にあるものを見直し、再び魅力的なものにするという考え方だ。

2026-27年秋冬コレクションより、“デスクトップブルー”の「Generous Shirt」。
だからmfpenのテーラードは、単にスーツをカジュアルダウンしたものではない。ジャケットもシャツもネクタイも、伝統を知りながら決められたルールから解放し、自分のワードローブとして着る。着こなしに漂う気だるさと、さりげなく潜む反骨心。その絶妙なさじ加減に、今テーラードを着るための新しい流儀が隠されているのかもしれない。

ブランドのタグや外観に記された「Herreekvipering(デンマーク語で紳士用装身具店)」は、祖父が営んでいた仕立て屋にちなんだもの。「mfpen」はデンマークの代理人制度を意味する「med fort pen」に由来し、「あなたの代わりに私がやりました」という意味。「自分が得意なことは自分でやり、他人が得意なことはその人に任せればいい」という、創業者バンクの考えが込められている。
mfpen (エムエフペン)
Møntergade 3C
1116 Copenhagen K., Denmark
公式サイト
Edit / Mana Sasamori
※雑誌『Esquire Japan』2026年10月号より転載
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