顔の上で軽やかに馴染み、掛ける人の本質を引き出してくれる「AHLEM(アーレム)」のメガネ。バウハウスの思想やフランスの職人技が織りなす極限の造形美(フォルム)とはなにか。世界中のファッショニスタを魅了するパリ発アイウエアの洗練されたデザイン哲学を紐解く。
伝説のセレクトショップ「コレット」での鮮烈なデビュー以来、世界中のファッショニスタを魅了し続けるアイウエアブランド「AHLEM(アーレム)」。2014年の設立から10年余り、デザイナーのアーレム・マナイ=プラットが描くフレームは、世界900以上の取扱店と5つの直営店を通じ、人々の表情と美意識を彩ってきた。

人気のリミテッドコレクションのシリーズ。洗練されたカラーレンズがエレガントかつクールなたたずまいを演出する。ブランドの根幹を支えるメタルコレクションの構造を全面的に見直し、新たな素材の採用と共に肌に触れる全パーツからニッケルを排除。単に目立つ造形をつくるのではなく、掛ける人にどこまでも寄り添う快適性と、時を超えて長く愛用できるタイムレスな機能美、そして静かなる技術革新を追求し続けている。
アクネ ストゥディオズやミュウミュウで経験を積んだ彼女にとって、アイウエアのデザインへと進んだのは至極自然な流れだったという。「幼い頃、旅のスーツケースに欠かさず入れていたのはカメラと時計、そしてサングラスでした。写真や時計への情熱は今も変わりませんが、当時の体験の延長線上に今の私のものづくりがあります」

写真上の上「Bagnolet」650ドル、写真上の下「Guerin」660ドル。建築的な幾何学ラインと、光を美しく捉える繊細な面取りカットが個性を引き立てる。下/キッチンの棚を彩るプライベートコレクション。パリの現代アーティストのカイズのオブジェや、旅先の京都で見つけたアンティークの陶器、オーストラリアのクラシカルな水差しなど、世界中を巡るなかで見つけた実用道具とアートが緻密なバランスで調和してたたずむ。プロダクトデザインと同様に、日常生活で使うものの背景にあるストーリーと美しさをなによりも大切にする彼女の美学が色濃く反映された空間だ。
彼女が生み出すフレームの真骨頂は、建築的な造形美と実用性の高度な融合にある。過度な装飾やロゴに頼るのではなく、1本のラインの角度やわずか1ミリの厚みの違いに情熱を注ぐ。「これ以上そぎ落とせない極限のシンプルさ」を追求するバウハウスの思想こそが、彼女のデザイン哲学の起点なのだ。「目指すのは、まるで必然であったかのようにたたずむデザイン。『なぜこれまで存在しなかったのだろう』と思わせるほど自然なフォルムから、洗練は生まれます」
その繊細なディテールは、高級時計の製造にも通じる精密さを誇る。名作時計パテック フィリップの「カラトラバ」が持つドフィーヌ針の傾斜に着想を得た象徴的なベベル(面取り)テンプルなど、妥協なき意匠を結実させているのが、フランスの熟練職人たちとの強固なパートナーシップだ。互いに問いを投げかけ、時に失敗を重ねながら技術革新を継続。最近でも肌に触れる金属パーツから完全にニッケルを排除するなど、見えない部分への美学も貫かれている。

デザイナーの思考が美しく整理された自宅アトリエのデスク。デザイン画を描く際に長年愛用している「Lamy 2000 Black」のペンや、贈られたメタルのボックスなどが整然と並び、凛(りん)とした雰囲気を漂わせる。
さらに彼女のクリエイティビティを支えているのが、モノに宿るエネルギーに対する独特な美学だ。「誰かの記憶が刻まれたヴィンテージではなく、自分自身の人生や時間を吹き込める新品のフレームを愛し、一生モノとして大切に育てる。そしてそれを次の世代へと受け継いでいきたい」—そんな彼女の哲学から生まれるプロダクトは、まさに時代やトレンドを超越した「新しい美のカタチ」を提示している。

自宅オフィスでのデザイナー、アーレム・マナイ=プラット。プロダクトへのアイデアが詰まった情熱の源泉。
そうして生まれるフレームは、単なるファッション小物の域を超え、掛ける人の人生に寄り添う親密な存在へと昇華していく。最良のフレームは新しい自分を誇張するものではなく、余計な装飾をそぎ落とすことでその人本来のたたずまいや自信を引き出してくれるからだ。 「アイウエアは、日常の何気ない会話から旅の記憶まで、全ての場面を共にします。だからこそ追求するのは、10年後も20年後も感情的に愛され続けるタイムレスな価値なのです」

玄関の棚をシックに彩る陶芸家の野口寛斉の花瓶や、スウェーデンを代表するガラス作家のエリック・ホグランによる表情豊かなアンティークオブジェ。

1950年代のハリウッドヒロインが醸し出すグラマラスなエレガンスから着想を得た「Malte」580ドル。
時を超えて愛される品格と、その人の本質を映し出す静かな存在感。そんなブランドの美学を体感できるアジア初の旗艦店が、今秋ついに東京・表参道にオープンする。職人技への敬意と背景にある時間を深く理解する日本の文化は、彼女の思想と強く共鳴する。 「過剰に飾ることではなく、本質を見極めることこそが真のラグジュアリー。この特別な場所で、深く息をついたときのような静かな穏やかさと、自分らしさを再発見する素晴らしい体験を届けたいと思っています」
洗練されたデザインと手仕事のぬくもりが交差する空間で、アーレムの描く新しい美の姿が、いま静かに花開こうとしている。

パリのサン・ジェルマン=デ=プレのドラゴン通りに構えるアーレムの直営旗艦店。ブランドの世界観と静けさが凝縮されている。
9 Rue du Dragon, 75006 Paris, France
※雑誌『Esquire Japan』2026年10月号より転載
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